「Avanade Flexible Support」により、「Power Platform道場」を支援、社内改革の意識醸成にも貢献
背景
旭化成グループの事業会社として、医療用医薬品の製造販売等を手がける旭化成ファーマ株式会社。同社のデジタル戦略について、石和氏は、「旭化成グループ全体でデジタル人材を育成していく方針にある」と話します。各事業会社がデジタル資格に関する教育コンテンツを自発的に受講、取得し、資格の証明書はスキルを可視化するプラットフォーム「オープンバッジ」上で管理されているということです。
その一方で、デジタル資格を取得し人材を育成するグループ全体の施策だけでは「なかなか実際の改革の取り組みにまでは発展していかない」という課題もありました。そこで、旭化成ファーマとして足りない部分を補完する必要があると考え、取り組むことにしたのが「市民開発」です。具体的には、「Microsoft Power Platform」を活用し、社員が積極的かつ自発的に、業務課題を解決して結果を出すためのアプリケーションを開発できるよう育成し、業務改革を進めていくものです。
同社がグループに先立って立ち上げることになったコミュニティ活動が「Power Platform道場」です。このコンセプトについて、石和氏は「コードをどんどん書いてアプリを開発する、というよりも、業務に精通した現場の人材が、最低限のデジタル知識、マインドを備えて、デジタルの流れに乗れるよう育成していくことにある」と話します。
「Power Platform道場」は2023年1月から開始されることとなりましたが、ここで課題となったのが「Power Platformを含めたITの育成ノウハウ」です。石和氏は「いざコミュニティを立ち上げて、市民開発者を育成しようにも、当社にはPower Platformに関するノウハウや知見がなく、トレーニングに知見を持つパートナーが不可欠だった」と話します。
そこで、2022年冬くらいからトレーニングの知見を持つベンダー選定が開始されました。
ソリューション
パートナー選定は、アバナードを含む、複数のベンダーを候補に、比較検討されました。「当社がパートナーに求めているものは『自分たちがすぐに使え、業務課題に対応している教育コンテンツ』だった」と石和氏は話します。ITベンダーを中心に数社のベンダーにヒアリングした結果、「最もコンサルティング的な要素を備えていたのがアバナードの提案だった」ということです。
「他のベンダーは定型的な研修メニューの提案が中心だったものの、アバナードは、私たちの要望を聞いて、課題に沿った柔軟な提案をしてくれた」と石和氏は述べます。アバナード側は、Avanade Flexible Supportを活用し「Microsoft Power Platform」関連のトレーニングをはじめとする、多岐にわたる要望に柔軟に対応した、業務へ貢献できるトレーニング を提案しました。
Avanade Flexible Supportは、『時間課金制』により企業の悩みや課題解決を支援するサービス。契約時間の使い方は自由で、課題解決に向けたワークショップやPower Platformに関する実践的なトレーニング、導入前後の問い合わせ対応などを組み合わせて柔軟な利用が可能です。提案の狙いについて、アバナードの島津 彩氏は、「これまで複数のお客様をご支援してきた経験から、単に研修を提供するだけでは、受講者が現場に戻り実際の課題解決を行うには、依然として高いハードルがあると感じています」と話します。トレーニング後の支援として、Avanade Flexible Supportにより受講者から質問を受け、知識が定着できるまでを伴走できる点を提供価値として提案しました。
こうした課題に寄り添った提案プランが決め手となり、Avanade Flexible Supportを用いた支援が決定しました。アバナードの支援による、「基礎トレーニングから、実際の現場の課題解決を目指したアプリ作成までを1クールとした活動支援」は2023年2月から実施されました。
具体的な支援内容は、主に「Microsoft Power Platform 初級者、中級者向けトレーニング」と「個別のQ&A相談会」の2点です。石和氏は「初級は、Power Platformがこんなことができるというのを理解する、簡単な操作トレーニングで、中級はより業務に近いケースに即し、課題に対して実装したい機能を開発するところを目指した」と話しました。
教育コンテンツの作成については、初級者向けコンテンツはアバナード側で予め用意したものを使い、中級者向けについては、「両社で協議しながらゼロから作成を行った」ということです。トレーニングコンテンツを設計したアバナードの豊田氏は、「石和様から業務側のアイデアをいただき、弊社側が提案したIT側のトレーニング内容にマッチするよう、機能としてどう落としこむかを設計した」と話します。
単なる機能説明だけでは受講者に身につかない点を考慮し、「業務改善の担い手である業務担当者が、実際にツールを使ってアイデアを形にできるよう、ITではない業務メンバーの方でも、システム的な考え方や実装スキルを、なるべく違和感なく想像でき、腹落ちするようなコンテンツの流れ、表現を考え、レビューを受けながら内容の修正を重ねた」ということです。
また、トレーニングは業務と並行しての受講となるが、「研修時間は固定で確保してもらい、通常業務の傍ら受講してもらった」と石和氏は話します。「理解が進まなければ、週1回予定を入れて、一緒に作る」というスタンスで、石和氏が参加者に寄り添いながらきめ細かくフォローを行ったということです。
「業務を抱えた中で、自分だけでトレーニングを続けるのは限界があるというのが市民開発の難しいところです」(石和氏)。その点、ツールとしての「Microsoft Power Platform」は「ITに詳しくない、プログラミングの専門知識がない人でも業務課題を解決できるツールであることを実感した」と石和氏は話しました。
2023年2月から開始したトレーニングには、2023年12月まで全3クールが実施され、合計で約40名が受講しました。受講者は営業部門の企画管理担当や、研究、製造、管理部門など様々の部門から参加しました。募集に際しては「各部署で推進リーダーを立て、その人経由で公募を行い、挙手してもらった」と石和氏は話します。
1クール目はテスト的に試行し、「反省点を踏まえた上で、2クール目、3クール目に改善を加えていった」そうです。たとえば、1クール目では、受講者の参加について「所属先の上長に積極的にコミットを取らなかった」と石和氏は話します。しかし、「トレーニングに割く時間の捻出やモチベーション、成果に影響することがわかり、以降は上司にトレーニングへの参加について予め合意した上で参加してもらうように働きかけた」ということです。こうした改善を重ねることで、トレーニングの精度も高まり満足度も高まっていきました。
成果
具体的な成果物の一例には、支店の営業で活用する「電話連絡アプリ」があります。これは、薬局などの得意先から医薬品の問い合わせや資材の発注があった際、これまでは受電管理システムがないので、電話を受けた事務担当者が電話番号を調べ、営業担当者を調べて、メールする作業が発生していました。
これをアプリ化し、電話があった際に施設名から営業担当者が画面に表示されるようになりました。電話を受けた人が該当する資材を入力して登録すると、担当者にメールが自動的に飛ぶ仕組みで、さらに対応履歴やステータス管理も行えます。
これにより、事務担当者の省力化や作業ミスの軽減、対応スピード向上による顧客満足度向上などの効果がありました。石和氏は「開発したアプリの中には、20時間から、多いもので最大1200時間ぐらいの工数削減効果が見込まれるものがある」と話しました。
アバナードの協業の成果について、石和氏は3つのポイントを挙げます。1点目は「市民開発の推進に必要な担い手の育成」です。受講者が作ったアプリが実際に稼働することで、ツールに対する認識が社内に浸透し、「ツール認知が進み、アプリで業務課題が改善できるのではないかという社員の改善の意識が高まった」ということです。
2点目は、「市民開発者育成のノウハウ、実績の蓄積」です。短期間の取り組みではありましたが、社内で成果として発表できるレベルのアプリを作成できDXの取り組みとしての「Power Platform道場」の運営の知見、ノウハウが蓄積できました。
3点目は、旭化成グループ全体でローコード、ノーコードツールの活用を進めていく中で、「旭化成ファーマが先鞭をつけた」点です。グループ全体のIT発表会で実績を発表し「グループ全体の市民開発の取り組みの底上げにも寄与できた」と石和氏は話しました。
石和氏は「市民開発を浸透させるには、相当の労力、時間もコストもかかる」とし、 伴走してくれるアバナードの存在がなければ難しかったと話します。その上で、今後の展開について、「小さな成果を積み上げることで、専任の市民開発者を各部署に配置できることが理想的だ」と話し、そこに向けて地道に成果を出していきたいと抱負を述べました。
また、グループ企業や他の企業など、社内DXに課題を感じている企業に向けては「Power Platformは現場の業務改善に適したツールだ」とし、「業務メンバーがやることに意義がある」と、まずは足元の業務を見直し、実際にアプリを作ってみることが大事だとしました。アプリができればデータが蓄積され、その可視化や生成AIをはじめとする次の施策の展開につながっていくため、「まずは第一歩を踏み出してほしい」ということです。
アバナードの支援は2024年7月で一区切りとなりました。石和氏は「ノウハウもだいぶ社内に蓄積されてきた」とし、「次の段階で、トップダウンで何か進めるとか、新しい技術が出てきたときに、さらなる支援をお願いしたい」と話しました。そして、マイクロソフトに対して深い知見、実績を有しているアバナードには、「今後も、業務に欠かせないマイクロソフトのツールの相乗効果により、業務が効率的に回っていくよう、継続的なアドバイスや示唆をいただきたい」と締めくくりました。
受講者の声 (医薬総務グループ 中村 千夏氏)
電話連絡アプリは事務担当者の業務軽減を目指して開発しました。受電から担当者へのメール連絡は手間と時間がかかり、「名もない家事」のような業務だと感じていました。営業担当者の利便性を考えスマホ版も作成し、広く活用していただけたことは大きな収穫でした。道場では基本的に自分で調べながらアプリを作成しますが、行き詰った際に具体的なフォローを頂ける石和さんの存在は大きかったです。今後もPower Platformを活用し効率化に貢献できればと思います。