JALグループにおける生成AI活用を支援、「JAL-AI」の開発、ユースケース拡大を支援

背景

日本航空株式会社(以下 JAL)では、「2021-2025年度JALグループ中期経営計画ローリングプラン2025」の中でAIやデータを中心とした「DX戦略の推進」を経営方針のひとつに掲げ、安全・安心な移動を提供することや、新たな顧客体験価値を創出する変革に取り組んでいます。そして、顧客戦略としてのマーケティングの高度化と、人財戦略としての生産性向上と価値創造を実現するためのツールとして、AI・データの活用は大きなテーマとなっています。

日本航空株式会社 デジタルテクノロジー本部 システムマネジメント部 セキュリティ企画グループ マネージャー 山脇 学氏は「ChatGPTの登場以降、生成AI利用の機運が高まり、セキュリティ企画グループでは、2023年4月から生成AI活用におけるリスク評価や活用のあり方を検討するワーキンググループを立ち上げ、議論を続けてきました」と説明します。JALでは、業務オペレーションや顧客マーケティングなどさまざまな領域で、AIやデータの業務利用を支える「AI-Centre構想」を掲げ、AIとDXを推進するための重要なテクノロジーのひとつとして位置づけています。

山脇氏は「生成AIを本格的にビジネスで活用していくに当たり、リスク評価を通じて、危険な部分、リスクについて認識がありました」とした上で「リスクをどう軽減していくと活用が進むかを考えつつ、生成AI活用による生産性、効率向上を進めていこうということになりました」と話しました。

リスクというのは、例えば「従業員が、ChatGPTに機密情報を含む情報をアップロードしてしまった」「従業員がアップロードした機密情報が、AIの再学習に利用され、外部に漏えいしないか」という情報漏えいへの懸念です。「生成AIを安全に活用していくためには、情報漏えいを防ぐとともに、AIの説明責任や透明性確保、著作権といった倫理面もしっかり確保していくことが重要だと考えていました」(山脇氏)。

そして、2023年6月頃より、外部のパートナーと生成AIの活用についての具体的なプロジェクトを進めてきました。しかし、技術面で、生成AIに自社が保有するデータを参照するよう機能を強化するRAG(検索拡張生成)の精度向上で問題が生じたため、プロジェクトの見直しを検討することになりました。

そこで白羽の矢が立ったのがAI支援に実績のあるアバナードです。アバナードによる支援により、2024年1月からプロジェクトは再スタートすることになりました。

ソリューション

アバナードによる「生成AI活用による社内業務効率化実現」の支援については、具体的には次のようなテーマで支援を行いました。

  • 社内ナレッジの検索・活用 
  • 他システムの検索・活用(API連携) 
  • 議事録の自動生成による業務効率化
  •  整備部門向けのマニュアル等の文書検索・活用

そして、全従業員向けに開発した独自生成AIツールが「JAL-AI」です。これは、グループ全従業員が利用可能な独自生成AIツールで、オフィスワークをする従業員だけでなく、iPadを主に利用する現場の社員も利用することが可能です。

山脇氏は「リリース後も、アバナードの支援のもと、機能アップデートを随時行っており、例えば、RAGを用いて、社内に蓄積された情報の検索機能を強化、精度向上に取り組んでいます」と話します。その一つが議事録作成のユースケースに対応した機能や、ドライブ内のファイル高度検索といった機能です。

アバナードのApps & Infra Practice グループマネージャー 斎藤 浩太郎は「技術面では、AIの回答精度の向上が改善テーマで、社内のさまざまなドキュメントを取り込み、精度がまだ高くない部分の課題を見極めながらさまざまなRAGの手法を取り入れ、評価と改善実施のPDCAを回して精度を高めていきました。また、AIへの質問の仕方のアドバイスや、JAL様の協力のもと、ドキュメントのフォーマットを見直していただくなどの、“AIが理解しやすくなる”工夫を行いました」と説明しました。

「航空会社にとって、安全運航は最重要テーマで、整備部門の担当者が問い合わせたときに、間違えた回答が示されれば安全問題に発展しかねません。そこで、ハルシネーションを回避し、検索性能を高めたのがドライブ内のファイル高度検索でした」(山脇氏)。そのほかにも、音声でプロンプト入力を可能にする機能の開発や、稟議書起案のための生成AIツールを、開発しているところだということです。

さらに、「JAL-AI」をベースに、空港業務に特化した「空港JAL-AI」もリリースしました。

山脇氏は「お客さま向けサービス向上の目的で、空港のグランドスタッフがお客さまから受けた問い合わせに対し、iPadで検索し、対応をサポートするツールとしてリリースしたものです」と説明します。

アバナードのData & AI Practice マネージャー 大橋 智仁は「空港JAL-AIには現在、空港のチェックインカウンターなどでお客さまの荷物が飛行機に持ち込み可能か、預けることが可能かを検索・回答する危険物検索アプリ、搭乗ゲートなどでさまざまなイレギュラー事象発生時にそのアナウンス文章を生成するイレギュラーアナウンス文章生成アプリ、ラウンジカウンターでお客さまがラウンジにどのような条件で入場できるか検索・回答するラウンジ入場条件検索アプリがあります。これらはどれも、実際の空港のグランドスタッフの方々とディスカッションを重ねて要件化し、そして実際の空港の業務の中で実証実験を行ってきております。お客さまを前にスピーディに操作と回答ができるようユーザーインターフェースや機能の改善、そして回答精度の改善を現在も進めております」と説明しました。

開発プロジェクトの進め方では、「コミュニケーションの頻度を高めること」に注力しました。基本的なプロジェクトの進め方は、週次でプロジェクトオーナーへの進捗報告を行い、日次で個別のミーティングを実施。1週間でスプリントを回していきます」と山脇氏は話します。

これに対し、アバナードの斎藤は「JAL-AIの機能ごとに小さな開発チームを組み、それぞれのチームでメンバー全員が毎日コミュニケーションを取る体制や各チーム間で状況共有できる場を整備し、活発にアイデアや意見を出しやすくしました」と説明しました。

一方、アバナードのアジアパシフィック兼日本Data & AI統括責任者 後藤 智親は「開発時はタスク、開発機能を細分化および明確にし、スプリントをスピーディに回していく体制を構築することに注力しました」と振り返ります。

「スプリントをスピーディに循環させていくためには、デリバリーとコミュニケーションのクオリティが鍵を握ります。これには、プロダクトオーナーであるJAL様の協力なしには成し遂げることができませんでした」(後藤)。

さらに、3、4カ月に1度、AIに関して議論をする「合宿」と称した集中ミーティングも実施。「JAL-AIチームとアバナード、開発ベンダーを集めて、議論する場を設けています」と山脇氏は話します。進化の早いAIテクノロジーについてのディスカッションの場はこれまで2回実施され、「3回目も企画中」だということです。

こうしたコミュニケーションの場を通じて、山脇氏は「アバナード側に改善要望を伝え、スピーディにプロジェクト メンバーで対応できる体制が整備されました」と話す。

山脇氏は「プロジェクトを通じて、キャラバンという社内チームのメンバーが社内各所に出向き、機能説明やユースケースの開示など、各部門のAI関心度を高め、利用を促進する活動を行いました」とし「こうした社内の体制整備はアバナードの支援があってこそ進められたことです」と話しました。

成果

JAL-AIについては「FY24には実質100%の間接部門の社員がAIを利用している状況で、認知が上がるにつれ、利用者は右肩上がりで増えました」と山脇氏は説明しました。

「中には『JAL-AIのない生活が考えられない』というヘビーユーザーの声もあるということです。機能の改善依頼やデータ連携の要望を柔軟かつ迅速に対応し、利用者の期待に応え続けたことも利用者数の増加に寄与したのではと考えています。今後は、AIエージェントの仕組みを取り入れ、さらなる業務効率化を目指していくことを考えています」(斎藤)。

また、空港JAL-AIについて、アバナードの大橋氏が紹介する実証実験の際のアンケート結果によると「危険物検索」「イレギュラーアナウンス文章生成」に対して、実証実験を行っていただいたグランドスタッフの方の90%以上が「お客さまへの回答速度が向上した」「アナウンス文章の作成速度が向上した」ということです。また「ラウンジ入場条件検索」についても、ラウンジ専門スタッフの方々であっても70%以上の方が、回答速度が向上した」といった成果が確認されたということです。

アバナードとの協業のメリットについて、山脇氏は「改善要望に対するアクションの早さを評価している」と話します。大企業での取り組みでありながら、スピーディにプロジェクトを推進することができているのは、上述したコミュニケーション体制によるところが大きいということです。

「コミュニケーションは重要と言われるものの、実際には難しい部分があります。アバナードは当社のビジネス意図を、専門的な側面からくみ取って適切にコンサルティングを実施し、開発に生かしてくれています」(山脇氏)。

例えば「空港JAL-AI」の場合は、実際に空港の現場に足を運んで、カウンターの中からスタッフの業務を視察し、その上でディスカッションを行って現場の意図を汲み取り、開発に反映する「現場を理解した開発体制の整備」が、プロジェクト成功の背景にあると評価しました。

今後は、一つのインターフェース・マルチデバイスで「さまざまな業務に使えるAI」に向け、さらに社内の全てのナレッジを取り込むために、APIを介した業務システムとの連携や、社内ポータルにある情報をクローリングして取り込む支援をしているところです。

また大規模言語モデルについても、海外の大手モデルだけでなく、国産の軽量AIモデルを技術評価、連携させながら「全体最適を図っていきたい」と山脇氏は話しました。

その上で、これからの取り組みでアバナードに期待することについて、山脇氏は「AIの領域は技術進歩のスピードが早く、その意味でも、マイクロソフトのパートナーであり、テクノロジーにおけるエキスパートであるアバナードに対する期待は大きいです」とし「これからも最先端のAI技術とノウハウにおけるリーディングカンパニーであり続けてほしい」と締めくくりました。

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